石油公団はこうした事情を背景に、公的な資金をこの開発分野に注入してきたわけだが、この公団の資金と民間の資金を合わせても、メジャー一社の開発費にも満たないというのがわが国の石油開発の現状なのである。
カスピ海の火をわが国にとって、幻にしないためには、最終的には国民の石油開発に対する合意が不可欠であり、そのためには開発問題に国民の関心が集まることが望まれるが、全般に弛緩してしまった現在の石油情勢のなかでは、開発問題への関心を高めることは極めて難しい。
こうしている聞に、カスピ海パイプライン問題にひとつの回答が出た。
九九年十一月にロシアルートか、トルコルートか、の問題に結論が出て、アメリカが主張してきたトルコルートにトルコ、アゼルバイジャン、そしてグルジアの三か国が合意、調印されたからである。
印象的なのは、この間題にアメリカがいかに関わってきたか。
そしてこの地域のエネルギー問題にいかに深く関わってきたかをクリントン大統領がイスタンプールで行われた調印式に立ち会うということで、誇示したことだったろう。
原油価格の急騰の影響が身近に感じられ、OPECの復権といった声さえも聞かれ始めている。
そんななか世界最大の産油国であるサウジアラビアと大石油消費国・日本を結ぶ二本の紳を現地に見た。
利権協定の期限切れを二〇〇〇年二月に控えて揺れるアラビア石油のカフジ泊問、そして石油連盟が初めて此界最大の石油会杜サウジ・アラムコと実施した油濁対策の日・サ合同訓練である。
そこから見えてきた結論は、石油は紛れもない戦略商品ということだった。
ヘリコプターを降りて、巨大な鉄鋼構造物の最上部にあるヘリポートの上に立った。
陸上から約四十キロ。
カフジ油田だ。
この油田が一十キロほど離れたところにあるフート油田と合わせてアラビア石油が利権を持ち、わが国などに約四十年に渡って石油を供給し続けてきた。
湾岸戦争で攻撃を受けて、その存在が喚起され、最近ではその利権延長問題が大きな課題になった。
風もなく空は透き通るような青さ。
海上に見えるガスの燃えるフレアが油田であることを示すように誇らしげに立ち上がる。
気温は摂氏十度程度、アラビアは暑いという勝手な思い込みはみごとに覆された。
巨大な構造物は静々と操業を続けている。
大きな音もなく、全く揺れもないのだが、今、この存在そのものが協定が延長されるのか、破棄されるのかをめぐり、日本とサウジアラビア間で大きく揺れている。
期限は二〇〇〇年二月末。
もう時間はほとんど残されていなかった。
日本の海外油田開発の象徴とされてきたカフジ油田は風前の灯という状況だった。
むろん、現場にそんな雰囲気があるはずはない。
日本が海外で育ててきた油田が消えるかもしれない、と無理に感慨を持とうとしても構造物はあくまで静かなのだが、五つ並ぶ構造物を歩き回りながら、日本の石油開発はどうあるべきかを考える。
日サ聞で問題になっているのは経済協力だった。
サウジアラビア側は鉄道建設を要求、日本はこれに不採算性から反対、石油化学などの提案をしているが、サウジがこれに対してノーという勝着状態となる。
サウジがあくまで鉄道にこだわる真相は不明だが、内部の政治力学で一歩も引けない「決定」という状態にあるのではないか、現地ではそんな話が聞かれた。
鉄道には二十億ドルの施設投資、さらには年間一億ドルの維持経費が必要とされていた。
そこまでして、このカフジ油田を守る必要があるのだろうか。
アラビア石油は東証一部上場の一民間企業である。
どうして日本政府がそこまで関与する理由があるのか。
日本の経済界からも強い疑問が出ていることは確かだ。
だが、ことはそう簡単ではない。
中東における石油は戦略製品そのものだからである。
確かに日下の日本では石油もしょせん普通の商品、国際市場から調達すればいい、という意識が高まっている。
一面の事実だろう。
OPEC復権という言葉が蘇ってきたといってもかつての切迫感は陸上部からカフジ油田に向かう際のゲイトの検査は軍が担当、写真撮影禁止が厳しく注意され、身分のチェックも厳重だった。
「油田は命」というサウジアラビアの意思が伝わってくる。
町中も同様、記念揖影と称しても背景に石油関連施設が入れば、見つかり次第、フィルム没収となる。
日本の政府機関の職員が海岸での撮影を沿岸警備隊に見とがめられ、フィルムを抜き取られたという。
それよりも湾岸戦争でアラビア石油の陸上部にある原油タンクなどがイラク軍の攻撃で被害を受けた。
すでに破損した原油タンクなどは修復され、その傷跡はほとんど残っていなかったが、屋根が壊れたまま小屋が放置され、郊外ではイラク軍の残していった装甲車が錆びて野晒しになっているのを見ることができた。
アラビア石油現地事務所の海岸には職員が隠れたという直径一・五メートル、長さ六、七メートルほどの鉄パイプを埋めただけのシェルターが残されのであった。
「意味がないとはわかっていながらも、寒さに震えながら一晩過ごした」と戦争を身を持って経験したアラビア石川職員は笑うが、「戦争と石油」という現実に直面して簡単に同調する気にはなれない。
石油審議会の場で、二年ほどまえ尚社代表の委員が「石油が戦略商品であるかないかの議論など無意味。
石油は産油国とメジャーの支配下にあり、戦略商品そのものと強調して注目されたことを思い出す。
中東駐在が長かっただけに、市場ボケした日本の石油政策論議に腹がたったのだろう。
現地を踏んでその気持ちに納得できた。
しかし、こうした点が強調され過ぎると日本の石油公団のような問題が起きることも事実だ。
石油確保は国策だと無神経に税金が使われてしまう。
そもそも今回の事態も本来はあくまでアラビア石油が自ら解決するべき問題であり、日本の通産省が全面に出ての交渉は変則である。
ところがこの変則はあまり議論もされていない。
変則だから反対というわけではない。
最近、カスピ海からのパイプライン施設計画がトルコルートで地中海へという形で決着したが、これにはアメリカ政府が直接大きく関与したことはよく知られている。
日本政府がアラビア石油問題に関与しても当然なのだが、それには暗黙でもいいから国民の、経済界からの合意、あるいは政府の不退転の決意表明といったものが不可欠だった。
アメリカではトルコルート決定のような問題では政府関与が安全保障上から当然として議論にもならないという。
しかし、米政府のサポートはあくまで軍事を含む政治的なもの。
アラビア石油の場合は経済協力の資金問題だ。
アラビア石油自身にも問題がある。
歴代杜長を通産省などの役所から招き、Y太郎といういわばベンチャー経営者の「志」は忘れられてしまっているという批判がある。
中東外交の要といった位置付けも今は昔話となってしまっているとも。
原油が売れない時には通産省庇護のもと、一種の行政主導による売り込みでその場をしのぎ、影では「カフジ油田の食いつぶし会社」とまで批判されるような結果になってしまっている。
中国で、いやベトナムでと、脱カフジ油田開発にも失敗、「企業としての当事者能力もはやはないに等しい」と断定する関係者も少なくないのが現状だ。
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